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曾宮一念『いはの群』(座右宝刊行会/1938年) [中村彝を知るための45冊]

いはの群1938.jpg 曾宮一念「落合風景」1920.jpg

 1938年(昭和13)に座右宝刊行会から出版された、曾宮一念のエッセイ処女作『いはの群』です。本書は、中村彝が死去してから14年後に刊行されたものですが、当時も曾宮は下落合623番地(1938年当時は淀橋区下落合2丁目623番地)にアトリエをかまえていたことから、中村彝をめぐる想い出話がところどころに登場しています。また、同じ下落合の町内に住んでいた画家たちとのエピソードなども語られています。同書は、1938年(昭和13)に書き下ろされたものではなく、それまでに発表されていたエッセイをまとめた内容となっており、大正期から昭和初期にかけての下落合と、その周辺をめぐる画家たちの様子を知ることができる貴重な資料となっています。また、当時の曾宮一念の画論や、自身が下落合で主宰していた画塾「(第2次)どんたくの会」用に書かれたものか、西洋画入門のような稿も収録されており、帝展を中心に活躍した中村彝と二科をベースに活躍した曾宮一念との、絵画に対する視座の違いも興味深い内容となっています。
 古書店ではよく流通しているのを見かけますので、本書の入手は比較的容易ですが、限定800部の出版のせいかかなり高価となっています。曾宮一念の著作は、その多くが図書館や美術館の資料室でも閲覧することができますが、本書に限っては収蔵しているところが非常に少なく、国立東京近代美術館のライブラリーでも未収蔵となっています。

写真は本書の函表と、1920年(大正9)に曾宮一念が中村彝アトリエの北西に建つメーヤー館(目白福音教会宣教師館)を描いた『落合風景』。


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