SSブログ

曾宮一念『夕ばえ』(求龍堂/1943年) [中村彝を知るための45冊]

夕ばえ1943.jpg 海辺の村(白壁の家)1910.jpg

 1943年(昭和18)の太平洋戦争中に求龍堂から出版された、曾宮一念のエッセイ集『夕ばえ』です。本書は、処女随筆集『いはの群』(座右寶刊行会/1938年)が出版されてからのち、曾宮が新聞・雑誌へ発表したり、手元に書き溜めておいたエッセイをまとめたものです。『いはの群れ』に比べ、中村彝に関する記述は少なくなっていますが、やはりところどころに想い出が登場しています。曾宮が在学当時の東京美術学校では、油彩画を描くのに「1号あたり1日の制作時間がめやすだ」というようなことが語られており、20号であれば20日間の制作リードタイムが必要とされていたようです。中村彝が1910年(明治43)に制作した、20号の初期作品『海辺の村(白壁の家)』は描くのに3ヶ月(90日)かかったという、曾宮が彝自身から得た証言を書きとめており、明治期の油彩画における制作速度は、曾宮が美術学校に在学していた大正前期よりもはるかに遅かったのではないかと、実例を出して分析しています。
 古書店ではよく流通しているのを見かけますので、本書の入手は比較的容易です。ただし、戦時中に出版されたせいで紙質が悪く、コンディションのよいものは少ないようです。大きめな図書館では収蔵しているところがみられますが、館内閲覧のみで館外貸し出しを禁止しているところが多いようです。美術館などのライブラリーにも収蔵されていますが、同様に資料室内での閲覧のみに限られているようです。

写真は本書の表紙と、1910年(明治43)に房総半島の布良(めら)で制作された中村彝『海辺の村(白壁の家)』。


nice!(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 1

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。